あたしは何になるのか

 最近、自分がわからなくなる。本当の自分はどこにいるのか。


 仕事をしているときの私は、「この受付の子がいるからまた来よう」と思うような完璧な受付嬢になりきる。笑顔で、感じがよくて、薬の説明も丁寧にしてくれて、急いでいるときには気を利かせて、猛スピードでレセプト打ち込んで、薬の用意して、どんなクソ忙しい時でも最善のルートを選べるようなデキる受付嬢。時間があれば翌日の予約カルテを出して、保険証のコピーでデータの打ち間違えがないかを確認して、予約の患者さんに確認電話をかける。お薬を出した患者さんには「お大事に」、レンズ購入だけの患者さんには「お疲れ様です」、夜になって暗くなってきたら「暗くなってますので階段お気をつけて」。インプットされたみたいにせりふが出てくる。でもそんなのは本当の私じゃない。
 梅田や神戸に出て行くときの私は華奢で少し目を引くような女の子。ピンク色をベースにした乙女な服を着て、FENDIのピンクラメのバッグに、abahouseのブランド紙袋。完璧なメイク。服に合わせたDiorの腕時計と、アクセサリー。ラメのグラデーションをかけたピンク色のマニキュア。少しだけ笑みを浮かべたような表情で、一本の線をなぞるように歩いて、ジャラジャラとストラップをつけた携帯の待ち受け画像は今はアヴリル・ラヴィーン。電車では座らない。座るときは足を斜めにそろえて。でも只のチャラ娘に見えないように、常に本は欠かさない。お店に行ったら必ず笑顔で「ありがとうございます」。カワイイ爪をしたバイトの女の子に「爪すごいかわいいですね(ニッコリ)」。それで何がしたいのか。何を求めているのか。自分がかわいいとは思わない。ただ、かわいくなりたいとは思う。でも、そんなのも本当の私じゃない。可愛くなりたいのは、薄っぺらくてドロドロした中身を全部、ばれない様に隠すため。
 家に帰った私はすべてを脱ぎ捨てる。レースの入ったレギンズも、神田うのデザインのブラジャーも、リボンのついたキャミソールも、ふわふわしたワンピースも何もかも。鞄から財布とポーチと携帯と本を取り出してベッドの上に放り投げて、セットした髪なんかどうでもいい。邪魔なものは頭の後ろで束ねてしまおう。上から下までユニクロの家着に着替えて、何がなんだかわからない日々を遠ざけるように、ベランダで目を閉じて煙草を吸う。これが本当の私? 誰にも見せたくない私? それでも、まだ何かを被ってるみたい。この日記がいい証拠。


 本当はどうしたいのか。
 本当は何になりたいのか。
 本当のわたしはどこなのか。







 あー
 忘れてた

 あたしは消えたいんだってこと