刻 ま れ な い 明 日

 三崎亜記の「刻まれない明日」を読んだ。前作に「失われた町」があったことを、ラストの短篇で知った(というか、これ前作あるのか?という程度の気づき)のだが、知らなくても全然読めた。ただ、所々に出てくる「思念抽出〜」という単語だけがなぜかこう浮いていて、どういうことだろうという気はしていたが…。

開発保留地区――10年前、街の中心部にあるその場所から理由もなく、3095人の人間が消え去った。
今でも街はあたかも彼らが存在するように生活を営んでいる。
しかし、10年目の今年、彼らの営みは少しずつ消えようとしていた。
大切な人を失った人々が悲しみを乗り越え新たな一歩を踏み出す姿を描く。

 同出版社の祥伝社の「Feel Love」という雑誌に掲載されていただけに、全ての話はベース恋愛ストーリーだけど、それが全然ドロドロしてなくって、静かで、なんだか切ない。10年前の記憶、10年前の別れ、10年越しの思い。忘れること忘れないこと。思いの昇華の方法。それが、流れるようにするすると、少し不思議なテイストで描かれる。少し三崎亜記から離れていたので、一作目からの書き口には始めなじめないものがあったのだが、それもすぐに慣れて、後はもうガッツクようにして読み進んでしまった。どのキャラクターも凄く素敵。同じ選択を迫られたときに、自分ならどうするか。むしろ、この物語のこの町に住んで、改めて自分を探したくなるような、そんな感じだった。いやぁ、良かったです。さっそく「失われた町」も購入したので、届くのが楽しみ。ハードカバーばかりで、飛行機に持ち込む荷物が無駄に重くなりそうな予感がしている。

刻まれない明日

刻まれない明日

失われた町

失われた町

 ちなみに、もう一作、三崎氏の作品で気になっているのが、「廃墟建築士」。なんだかもうそのタイトルが全身全霊で私に「読め!!」と叫んでいる気がしてならない(気の所為だから) 彼の作品はどれも、自分を、現実とはほんの少し違ったファンタジーに連れて行ってくれるので、現実逃避したいときにはもってこいである。これからも期待。
廃墟建築士

廃墟建築士